009:オープンデータ時代の情報システム

ここ数年欧米で進みつつあるオープンデータの流れを受けて、最近、日本においても公共データを中心にデータのオープン化と活用の動きが始まりつつある。

現在は、

・欧米の先進事例の調査

・実証実験フェーズを抜け出したばかりの公共のオープンデータ

・オープンデータの利活用に関するアイデアの募集

・ビジネス化の模索

・必要となる法律の検討と法整備の準備

という段階であり、揺籃期といったところだが、そう遠くない将来にティム・バーナーズ・リーが思い描くようなデータのWebが実現し、利用者が必要な情報をWeb上から収集し加工する日がやってくるだろう。

企業情報システム向けサービスプロバイダーも、国内における従来型市場の飽和状態から脱却すべく、オープンデータを中心としたサービスに商機を見出そうと技術や商材の開発に注力し始めている。

昨年あたりからビッグデータが流行し、その言葉はNHKをはじめとして広くマスコミに取り上げられるなどして、IT業界のみならず、広く一般にも知れ亘ることになった。ビッグデータとオープンデータは意味が異なるものであるが、データサイエンスや企業の分析力とそれら2つのデータがうまく融合された暁には、大袈裟に言えばデータを中心としてIT大きくパラダイム転換するのかも知れない。

もちろん、従来の企業情報システムにおいてデータが重要視されていなかったわけではない。データ中心設計(DOA)による企業情報システムの構築がその端的な例だろう。しかしながら、DOAは情報システムの保守性や拡張性を担保することが目的であり、意思決定に資する情報の提供という目的に対してはほとんど効果を発揮できていない。強いてあげるならば、データモデルをデータ分析者に開示し、データ分析者が容易にデータを抽出・加工できるようにそのデータモデルを活用してもらうことがあげられる。自社で取り扱うことができるデータとそのデータ同士の関係が可視化されていればデータ分析者は暗闇からデータを探し出すという非効率な作業が省ける。しかしながら、データモデルは従来そのような目的に限定して開発されてきたわけではないから、ツールとしては不十分と言わざるを得ない。

わたしが、パラダイム転換であると考えるのは、従来の企業情報システムではクローズドな世界での構築や運営を前提に各種の技法やルールが確立されてきたからだ。例えば、円滑なデータ流通を実現するために最適なマスタやコードの設計が必要とされる。データ流通の範囲は全社だから、一組織やひとつの国の現地法人だけで適用されるローカルルールは廃され、全社最適な構造が指向される。また、データ品質を担保するために全社で一元的なデータに関するガバナンスが要求される。従来の企業情報システムでは、これらの実現ために自社内で最適な設計が指向されてきた。

ところがすでにお気づきのように、オープンデータの時代にあっては、外部の第三者が構築したデータの活用が当たり前になるのであり、そこに自社固有のデータの設計品質やデータそのものの品質を求めることはできない。従来の方法論で考えれば、そのような外部データを使う場合には、例えば、ダンズナンバーを自社の取引先コードに変換するなど、自社内のデータとして処理していた。あくまで自社で作成したデータ(この場合、取引先マスタ)が主体であるという考え方である。しかし今後は、外部の第三者が作成したデータを主体として活用する時代になるかも知れない。企業内で外部データの活用が進み、自社のデータと外部のデータの活用比率が50%:50%になったと仮定しよう。そのとき、外部の50%のデータを都度自社のデータに変換するのは非効率である。外部のデータをそのまま利用したほうが簡単だ。そのとき気になるのはデータの品質だ。自社の満足のいく品質でなければ安心してデータを活用できないというわけだ。しかし、企業の枠を超えて広くデータが流通する時代になると、むしろ個々の企業が個別に品質の確保に努力するよりも外部の第三者が作成したデータのほうが、よほど品質が高いという状況になる可能性がある。

このように考えれば、少なくとも取引先データ(外部データの視点で言えば企業データ)や個人データなどマスタデータを中心として外部データの利用が主体になるという状況になるかも知れない。かつて、企業の情報システムは手作りが中心だった。ERPが登場した後も自社の固有業務こそが強みであるという考え方が根強く、業務をERPに合わせることに大きな抵抗があった。その結果、せっかくERPを導入しようとしても度重なるカスタマイズでプロジェクトが大きく頓挫することが多かった。しかしながら、多くの経験と失敗を重ね、企業のITに対する理解の深まりやERPそのものの技術的成熟を経て、今日では登場当初と比べてERPに対する抵抗感は低くなった。“業務をシステムに合わせる”という発想に対する抵抗感のほとんどが単なる杞憂であることがわかってきたし、業務変更によるロスと早期に廉価で効果的なITを導入することによるメリットを天秤にかけ後者を選択する考え方が多くの企業に醸成されてきた。むしろ、今日では中小企業を中心に、自社の情報システムの刷新においてはERPの導入が前提であることのほうが多い。

つまり、このアナロジーから考えるならば、データにおいても自社固有に拘る必要はないということだ。積極的に外部で設計・作成されたデータをそのまま自社で使う時代を想像することは、それほど突拍子もないことではないのだ。そもそも同じメーカーのERP製品を導入している会社同士であればどちらかが極端なカスタマイズをしていない限りデータの構造は同じである。違うのは中身(データそのもの)だけだ。そのような時代の到来を予想するならば、従来のように自社内だけの最適性を追求していたDOAなどの各種方法論には大きく見直される必要が生じるだろう。

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